独りごちの3096。

野良猫の写真や企画展、美術展を紹介するなどなどの三十路おじさんの雑記です。ビールも大好きなので発掘していきます。Twitter https://mobile.twitter.com/t3096t LINEスタンプ https://line.me/S/shop/sticker/author/13586

【二人ごち08】6時58分の選択死【ショートショート】


ガタンっガタンッ

社会人五年目の男性が電車の座席に座っている。
朝の通勤のために座っている。

周りには会社に向かうサラリーマンやOL、学生などで車内は満杯だ。

彼は仕事を真面目に頑張り、周囲から期待され先月チームリーダーに任命された。

会社の出世頭と認められ、出世街道に1歩踏み出したのに彼の表情は曇っている。

仕事は激務で同期はほぼいなく、上司もほぼいない。

激務と言っても人が死なない程度の飼い殺し状態。

社長は人は財産だと言うが、それで言うなら借金しているだろう。
社長の言うことはすぐに変わり、気分次第で正解が変わる。

あいつは馬鹿だから手として使え。
なんであいつを手として使ってる? それだけじゃ給料は出せないぞ。
なぜあいつにその仕事をさせている? やらせるなって言ったよな?

正義の反対もまた正義。そんな言葉で言い表せない。

そんな回想をしていると、降りる駅に着いた。

降りようとすると、座席に背中とお尻がくっついて取れない。

必死で立ち上がろうとするが、磁石のようにくっついたままだった。取れなく無情にも扉が閉まっていった。

景色は流れ知らない風景が流れている。

かたんっかたんっ

街並みが段々緑になってきている。

鞄の奥底に入っている携帯がブーブーとなっているが足元にあるので取れない。

おそらく会社からだろう。
大絶賛始業の時間だ。

今から行っても大遅刻になる。

ドアが開く度に喧騒から遠ざかってきている。

ずっと座っていたらどうやら終点の駅に到着したらしい。

終着駅に着くと、難無く立ち上がることは出来た。

だが鞄は地面に張り付いたままだ。

無理やり持ち上げようとしたが、持ち上がらず、チャックも固定されているかと如くうんともすんともいわない。

まぁ大切なものは入っていないので置いていこう。

幸いに財布はポケットに入っている。

扉から出て感じたのは……………。

嗚呼空が青いな。